PART.39 決戦!!エルちゃんVSベルモルン
「ほら、ここだ」
闇の精霊の後についていく。そこは以前、清水の起源から力を受けたマルニの実験場という場所の近くだった。
闇の精霊が指差した方向には、一人佇む彼の姿があった。
「ジョルダイン・・・いえ、ベルモルン・・・!」
私は彼に声をかけた。私は彼がジョルダインであることを願っていた。かつて彼はカルフェオンからハイデルを救おうとしていた。そして純粋にカルフェオンを憎んでいた。カルフェオンへの怒りに満ちていた彼であったが、そこにはある種の人間らしさも感じられた。
しかし今、彼がこちらに向けた表情から、そういったものは微塵も感じられなかった。
「私の他に闇のオーラがあたりをうろちょろとしているのを感じていたが。なるほど。貴様だったか。」
こちらに体を向けるベルモルン。
「・・・悪くない。しかし、濁っている。貴様は光を持っている。純粋な闇ではない。」
私は刀を抜く。彼我の距離を一定程度保ちながら様子を伺うが、ベルモルンは余裕そうに視線を別に向け語りだした。
「敵意、侮蔑、利己心、不和、嫉妬、党派心、姦淫、強欲、そして怒り。貴様らが求めたものだ。」
「・・・?」
「闇は人間と対極にある存在ではない。貴様ら人間が私達を求め、すがったのだ。」
「ジョルダインもそうだったと。」
「嗚呼、彼は美味であった。彼の魂は怒りに満ちていた。彼は私を利用しようとしていたようだが、私に勝つことが出来なかった。もともと人間が、闇の力に勝つことなど出来ないのだよ。」
彼は再び体をこちらに向け、手を広げて不気味な笑みを浮かべて言った。
「エルとかいう冒険者よ。貴様も闇に委ねてみよ。貴様のうちにあるその小さな闇などとは比べものにならぬ力を与えよう。そうすれば貴様はこの世の全てを得ることができる。」
普段であれば文句の一つも言うであろう闇の精霊が、いないのではと思われるほど今はおとなしい。流石に闇の君主の前では、彼も小言を挟む度胸はないのだろうか。
「何がほしい。地位か?名誉か?財産か?権威か?私達に得られぬものなどこの世に存在しない。さあ、答えてみよ」
「人を闇に陥れてまで、そんなものがほしいとは思わない・・・!」
「闇を求めるのは人間の根源的欲求。それでは逆に聞こうじゃないか。君はそれらを諦めて何を求めるのか。貴様はおのが人生をもって何をなそうというのか」
「闇の力に頼らずとも、私達人間は力を得ることができる!!幸せを掴むことができる!!そのために生きる・・・!」
「ク・・・クハハハ。ではやってみせよ。貴様に絶望という大いなる闇を与えよう。そして絶望の中もがき苦しみながら、私に従わぬ愚かな選択をした自分を呪いながら死ね!」
圧倒的なオーラ。闇の精霊などとは比べ物にならない深い闇、威圧され体も震え、身動きが取れない。
しかし、私の中に小さく、弱くはあるが、確かにそこにある「希望」が感じられた。
「これは・・・」
カルフェオンにあった、遺物。アルスティンはそれを「希望」と言っていた。闇の力に対抗する力。その希望であると。
体が動く、少しずつではあるが、その小さな光によって勇気づけられた。
そして私はバックに忍ばせていた古代の光の器を取り出す。
それを手にした時、ベルモルンの顔から先程までの余裕の表情が消え、刀を掴んだまま思い切り走り寄ってきた。
「貴様!!それをなぜ・・・!!!」
器が光を発した。その強い光を迫ってきたベルモルンへと向けた。
「うぐ・・・・ああぁあぁあああ!!!!」
「ベルモルン。この古代の光は、私だけじゃない。アルスティンおじいちゃんやフレハラウ村長。錬金術師ゴルガス。それにエダンやオーウェン、ヤーズちゃん。その他にも大勢!皆の助けを得て手に入れた力だ!」
「くだらぬ!!人間という脆弱な種族!!脆弱であるからこそ群れなくては何事もできぬ愚かな者共!!」
「そんなことはわかってる!でも弱いからこそ助け合える!支えあえる!!自分の弱さを知っているからこそ、人を許せる!人を愛せる!!!そしてその結晶が、この光だ!!!」
光が武具に宿る。闇の精霊はよほどその光の中が居心地が悪いのか、少し私から離れていった。
「貴様ら・・・!!私を守れ!!!私の盾となれ!!!!!」
ベルモルンが手下のシャドウナイトを召喚した。しかし、光によって強められた私の前では彼らの力など全く役に立たなかった。
「おりゃぁああああ!!!消し去れベルモルン!!!!!」
古代の光によって、力の弱まったベルモルンは、あっけなく切り捨てられた。
「私の・・・悲願が・・・・!!!闇の世界の成就が・・・!!!」
ベルモルンはジョルダインの体ごと、霧状になって消えていく。どうやらジョルダインの魂を身に帰らせることはできないようだ。
「闇は光に勝てない。あなたの負けよ、ベルモルン」
「・・・ふ・・・ふふふ、ふはははは!!!いいさ、何百年、何千年、何万年、私は生き続ける。闇は人間の中にあり続ける。これで終わりではな―――・・・。」
ベルモルンは塵となって消えた。
・・・
闇の精霊「ハハ流石だぜ、相棒。」
(´・ω・`)「ジョルダイン・・・」
闇の精霊「さぁて、最後の仕上げだ。向こうにある狼煙台。あそこの闇を回収しろ。そうしなければまたすぐベルモルンが復活することになる。」
ほんとかよ・・・、と思いながらも仕方なく狼煙台に向かうエルちゃんであった。