PART.49 従順か。正義か。
バチョー「おや、君か。ヴァルキリーのお嬢さんにはあえたのかな?」
エル「バチョーさん。あなたに聞きたいことがあります。」
私はシャドウナイトがもっていた文書をバチョーに渡す。
バチョー「む・・・?なんだねこの文書は・・・これは・・・」
エル「この文書の司祭っていうのはあなたのことですよね。あなたが光明の兄弟なのですね。」
バチョー「・・・君・・・君は一体どこまで・・・。」
エル「光明の兄弟。過去に各王国によって追われ、行き場をなくした黎明騎士団のメンバーが、上辺だけエリアン教へと改宗し、司祭となることで大きな勢力となっている・・・黎明騎士団の禁書に書いてあった内容です。」
バチョー「あぁ・・・全てエリアン様の思し召しなのかね・・・いいだろう・・・聞きたまえ。私の全てを。」
・・・
どこから話したものか。。。そうだな、彼女のことを話さなくてはなるまい。
赤髪の美しい女性がいた。名をヴァルキリス・エンスラー。そう。ヴァルキリーという名は彼女から来ている。
とても眩しい人だった。強く、やさしく、正義感があり、そして何より美しかった。私は彼女のそばに立つために、教団の最高司祭の地位まで上り詰めたのだ。
エンカロシャーの粛清によって、行き場を失った私にとって、彼女こそ、この世の唯一の光。私にはそう思えた。・・・そう信じたかっただけなのかもしれないがね。
・・・
エル「そのエンスラーという人が、あなたの心の拠り所となったと・・・。それで、あなた達光明の兄弟は、クザカを復活させようとした。そのように聞いてるけれど。」
バチョー「そうだ・・・クザカ・・・。私は望んでいなかった。私は彼女をなくしたくなかったのだ・・・。まぁ、それは私だけが考えていたのかもしれないが」
・・・
エンスラーの高い能力とカリスマを、エリアン教の者たちは利用しようとした。彼らは『ヴァルキリー教本』なるものを作り、軍隊育成のためにカルフェオン神聖大学を設立した。
エンスラーの赤い髪に倣い、髪の毛を赤く染めさせるような洗脳的な教育をしたり、求められた成果を上げられないものにはひどい仕打ちをするといったことも横行していた。
エンスラーはそんなエリアン教のやり方を快くは思っていなかったのだ・・・。
カルフェオンはエンスラー率いるヴァルキリー精鋭部隊に任務を下した。それは「カルフェオン寺院に現れた不完全なクザカを封印せよ」というものだった。
しかしエリアン教はカルフェオンとは別の任務を彼女に下したのだ。
「クザカを復活させよ」と。
・・・
エル「エリアン教が!?クザカ復活を依頼した?なぜ!?」
バチョー「クザカはこの世に混沌をもたらす。混沌は人に恐れを抱かせ、恐れを抱いた人々は神にすがる。」
エル「人々をエリアン教に依存させるために、クザカを復活させようとしたというの!!?」
バチョー「当時、それでなくても黒い死によって混乱し、多くの邪教が生まれた。王族は権威をなくし、世界が無秩序で溢れていた。宗教は心の荒んだ人々の上に安寧をもたらすからね。まぁ、私はエリアン教司祭というよりも、光明の兄弟としての働き、つまりクザカ復活のために動いていたに過ぎないが。」
「ただ・・・」とバチョーは言葉を続ける。
・・・
エリアン教の司祭としても、光明の兄弟としても、クザカを復活させるべきだった。
しかし・・・私は愛してしまったのだよ。彼女を。
クザカが完全体になるには純粋なるヴァルキリーの魂が必要だ。それはエリアン教によって作られた精鋭部隊のものだけではない、私の愛するエンスラーの魂も奪われてしまう可能性があった。
私は立場上、彼女に「復活させよ」というしかなかった。しかし心のなかでは、彼女に生きてほしかった・・・。彼女に危険が降りかかるのを恐れた。
ふふ、そしてどうなったと思う。彼女はクザカに剣を向けたのだ!私の命令に反して!エリアン教の命令に反して!!しかし、私の願ったとおりに!!!
想像できるか。その時、私が感じた高揚感を!恍惚を!!!
私は彼女のいる世界で、彼女と共に生きることができる、そう思った。
・・・
エル「エンスラーはエリアン教よりカルフェオンを取ったと・・・」
バチョー「いいや、彼女は自分の信仰を貫いたのだよ。私達のような歪んだ信仰ではなく、この世のなんの罪もない人々に混乱を抱かせるのはエリアン様の意志ではないという、純粋な信仰をね。」
・・・
クザカは封印された、エンスラー率いる強きヴァルキリー精鋭部隊の力によってね。
しかし、どうやらエリアン様は私のことを許さなかったらしい。
エンスラーは姿を消した。ある日突然。
私の選択は間違っていたのだろうか。彼女は私に失望しただろうか。あの時のことをずーっと後悔しながらこの修道院でエリアン様に懺悔をする日々だよ。
・・・
エル「なんだかあなた、信心をもってそうな言い方ね。」
バチョー「く、ふふ。そうだね。彼女なきあとで、私は何にすがればよいのかわからなかったからね。司祭としての役割を果たしているうちに、いや、彼女の信仰を見ているうちに、心囚われたかな。」
エル「よくそんな悪さばっかりするエリアン教を信仰しようと思うわ・・・」
バチョー「剣が人を殺すのではない。人が人を殺すのだ。ちがうかね?」
エル「・・・?」
バチョー「信仰が悪いのではない。その信仰を捻じ曲げ、自分の欲を正当化するための道具とするその邪な考えこそ悪なのだ。今、私はエリアン様を信じているよ。ただ純粋にね」
・・・
バチョー「冒険者よ。教えよう。光明の兄弟はすでにエリアン教の深いところまで根を下ろしている。そして、純粋な血を持っている供物を選別し、カルフェオン寺院へ送るのだ。」
エル「そんなことを・・・」
バチョー「供物として選ばれた者が運ばれるところを、何度か救おうとしたことがある。しかしいずれも失敗に終わった。頼みたい、あなたが影たちを制圧してくれないか・・・。供物として捕えられた人々を救ってほしい」
エル「あなたのかつての同胞を殺すことになるわよ。いいの?」
バチョー「ベルモルンの残滓によって心を侵食されたまま、完全に闇に落ちた哀れな同胞たちだ。君が彼らを解放してほしい。」
エル「良いでしょう。」
解放、してやりましょか(⌒▽⌒)
続く!